2008年8月23日土曜日

8月23日(土)大学で高まる観光教育熱

・ 「大学で高まる観光教育熱」として大阪日日が今朝の新聞に記事を出している。ホテルでの接客や海外旅行の添乗など「観光」に関連する人材の育成を掲げる大学が増え、来年の4月には「全国で40大学で定員は4247人」に及ぶとある。
・ 日本を訪れる外国人観光客を増やすべく「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を政府が開始し平成10年には1000万人と目標を掲げて活動した成果もあり、03年の521万人が07年には835万人に増えているからそれなりの成果は上がってきている。
・ 07年4月には「観光立国推進基本計画」を決定し国内の観光旅行消費額を05年度の24兆円から5年間で30兆円に引き上げるなど新たな目標を掲げ、今年10月には「観光庁」も発足する。
・ しかしだ。そうだからと言って大学側が「観光関連学部」を作りまくり、生徒を募集していることが本当に「日本の大学のあるべき姿」か、ここはじっくり考えないといけない。「大学の学生集めの手」に易々と乗ってはならないという気を拭えないのだ。
・ 「観光」「ツーリズム」「ホスピタリテティ(おもてなしの心)」などの名前が付いた「観光関連学科」は首都圏を中心に増える一方だが、今後ともこの路線は動かないだろう。誰しも「観光」という言葉に惑わされる。「格好良いイメージ」があるからだ。
・ 大体「観光は学問か?」と言いたい。大学で「観光関連」として何を学ぶのかが問題である。外国語であれば「外国語系大学」や「外国語学部」の方が体系的に学べるだろうし、「つぶし」が利く。おもてなしの心は総合的人間力の問題だろう。学問ではないはずだが。
・ 問題は「就職」に有利かどうかだろうが、その実績は厳しい。国土交通省は04年度から06年度の観光関連学部を卒業した4200人のうち旅行業やホテルなどの宿泊施設、旅客鉄道会社などに就職したのは約23%というから極めて少ない。全国でたった966人だ。3年間だから1年にすると全国で320人に過ぎない。
・ 大学の観光学部を卒業したが就職は自動車販売業、不動産会社だったなどでは「辛かろう」に。大体大手のJTBや近畿日本ツーリスト、日本旅行などの旅行業の採用枠と大学の卒業生枠は余りにも大きな差異がある。
・ 確かに国内の旅行会社と宿泊施設の従業員は18万人であるが、各年代を考えれば就職機会が多いわけではない。どちらかと言うと「狭き門」であると考えた方が良い。観光学部を卒業したからといって簡単に就職があるわけではないのだ。国道交通省は躍起になって就職者の数を増やそうとしているが、肝心の企業側は冷めている。
・ ある大手旅行会社は「知識は後からでも身に付く。採用は人物本位で出身学部は関係ない」と明確に言っている。又東大の先生は「観光は健康や福祉などと同じように就職先を思い浮かべ易く、受験生を集め易い。しかし教育の中身が伴わなければいずれ志願者は減る」と明言している。
・ 「手っ取り早く格好良いところに就職できそうー」なんて気持ちでろくに勉強もせず、入学しても、「就職に有利」とはならないのではないか。又運よく就職できたとしても隣の「経済学部出身」「法学部出身」「文学部出身」「教養学部出身」「英米語学部出身」者等に比べて学力も常識も品位も全てに劣っているようでは辛いだろう。
・ 要は「実力」だ。実力を磨く、付けることが寛容だ。「名前の格好良さ」で学部を選択してはならないことを本校の生徒には口を酸っぱくして言っている。「新しい物には気をつけろ」まで言っているのだが。
・ それにしても大学は生徒募集のためには「考え付くことは何でもやる」という姿勢だ。教える中身の「シラバスや教授などの指導陣などの体制整備は大丈夫ですか」と心配になってくる。
・ そういう意味では伝統ある国公立や名門私学などは「軸がぶれていない」。しっかりとして「大学の存在意義」を確保している様子だ。経営がしんどいところが何でもかんでも「新しい学部」を作り「生徒募集」をかけているような気がするが「落とし穴」にはまってはいけない。
・ 一部の大学は理系のカレッジなのに「ファンド学部」とかおよそ理系と関係ない学部を設置したりしているが、それは問題である。一時期、介護福祉学関連学部が人気の的に成り学生を集めたのは良いが今社会の大きな問題の一つに「ワーキングプアの代表として介護職」が報道されている。給料が安くて誰もなり手はいなくなるのだ。
・ 高校側から言えば「大学のなりふり構わぬ学部設置と指定校の乱発」は「日本を駄目にしている」と気づいて貰わねばならない。少子化の中で、大学は減るどころか増え続け、学部はうなぎのぼりで増えている現実に団塊世代の私には驚くばかりなのだ。
・ 日本の大学は「本当に大学か?」と最近はふと思ったりする。長い間校長をやっていると卒業していく生徒の学力、常識、規範意識など時に疑問を持つ生徒が居ないわけではない。そのような生徒が「ファッション感覚」で大学に行く。
・ それはそれで良いではないか「本人と家族の決定」だ。高校は学習指導要領に乗っといて「やるべきことをちゃんとやれば良い」という意見もあろう。しかし校長の職位を離れて一人の人生の残余が少なくなった人間として考えたときに、「日本の行く末がいささか心配になってくる」のだ。年を取ったのかな。