2008年1月23日水曜日

1月23日(水)学校の主任・主事

1.主任職の法的整理
・ 学校に「主任」などと呼ばれるものが生まれたのは何時ごろなのか調べるのだが、はっきりしない。漱石の「坊ちゃん」には出てくるから恐らく明治時代にはあったのかも知れない。「3年B組金八先生」には主任先生は時々出てくる。「主任」と「主事」の「違い」も知りたい。こういうのを調べるのは大好きだ。
・ 戦後の新学制発足後20年を経た昭和42年に文部省は「各学校が校長の指導のもとに生き生きとした教育活動を組織的に展開できるよう校務分掌を分担する必要な職制を定めて校内組織を確立する」という中央教育審議会の答申を尊重し「制度化」を進めた。すでにこのときから「組織的」という言葉が出ていることに私は合点した。しかしその道筋は険しいものであった。
・ 昭和50年3月、学校教育法施行規則の一部改正で小学校、中学校、高等学校に「主任主事などの設置を規則として義務付け」て今日に至る。制度そのものと、主任は「教諭をもってこれに充てる」という学校教育法の規定とその条文が実は頭を悩ます問題となってくる。
・ 例えば教務主任について言えば「教務主任は校長の監督を受け、教育計画の立案、その他教務に関する事項について連絡調整及び指導、助言に当たる」と明確に規定されている。この「連絡調整と指導、助言という言葉」が響きは良いが実効性の問題として物議をかもす。
・ 主任の制度化に対し、これに強く反対する勢力は「教員社会の民主的意思決定を崩すもので主任制度は教員間に秩序の崩壊と混乱をもたらす」という論理で一大反対闘争を進めたのであるが、当時の永井文部大臣は「主任は中間管理職でなく、その職務は職務命令を発することにあるのではない」と昭和50年12月に「調和のとれた学校運営について」として文部大臣見解を示すはめになることになる。
・ しかし考えてもみよ。前述した法律制定の趣旨や連絡調整という言葉は経営論で言えば「コーディネーション」であり、連絡調整には「組織の論理の優先性」がまず求められるわけで、個人の教員の「教育観が優先」される訳がない。しかし学校社会の主任制度に対する受け取めはこの文部大臣談話で正式に決まった。
・ 昭和51年1月の事務次官通達で「主任等は・・、必要があれば校長、教頭の指示を受けてこれを関係教職員に伝え、あるいはその内容を実施するため、必要な調整等を行う」と補強したが、これらのあたふたとした行政の動きに当時の行政と職員団体の激しいまでの論争が垣間見える。時代背景を完全に映し出しているのである。
・ 指導助言という言葉も曖昧で主任は「指導職」を定義しているもので、教育の先達としての「アドバイス役」で強制力はない。受ける側も自分が納得せねば、「指導助言に従う」などはないと考える。「強制力のない主任」としてスタートしたのである。
・ こういった曖昧模糊とした主任制度は日教組の支配する学校文化に上手くマッチし、結果として「学校の組織化の遅れに手を貸す」ことになったと私は考える。主任が指導しようと助言しようと一生懸命に校長や教頭の意思を伝え「連絡調整」しようにも、最終意思決定は「職員会議での挙手による賛否」で決めることが「民主的方法」と固執する学校文化に流されることになる。
2.主任の発令と任期
 ・主任の発令は最後は校長の裁量で決定されるというのが一般的である。主任は「任に命じられる」「任に充てられる」のであって「新しい職に就く」というのではない。即ち「職に命じられる」のではない。
 ・従って「命任」という言葉が使われる。又「教諭から充てられる」との法的規制から省令主任については管理職たる教頭が「充てられる」のはおかしいのであって、これは不可能であるが、私学においては基本的には学則の整備等で教頭兼務というのは可能であると考えているがどうだろうか。
 ・主任の年度内の交替はあり得ない話である。この交替制も日教組と当局は激しい闘争が歴史的にある。前述した文部大臣通達の中に「原則として主任の地位に付いたものが固定化せずに出来うる限り多くの教員が主任としての経験を踏むことが望ましい」を逆手にとって年度内で主任交替を運動として取り上げた経緯もある。
 ・校務分掌は原則的に入学式の4月から翌年3月の卒業式までの「1年単位」であり、年度途中で主任が交代などあり得ない話である。府県によっては「学校管理規則で1年」と明文化しているところもある。
 ・校務分掌の当て嵌めは校長の専管事項であるから「命任」は「校長の職務命令」であることが理解できず、「厭だ、やりたくない」で「だだをこね」本校でも「説得」に2週間以上を要したことがあったとか、結局「逃げ得」のケースもあったという。健康状態や家庭事情ならいざ知らず「教員のわがまま」を許してはならない。
 ・公立高校に民間人校長として着任した平成14年、主任や主事が職員会議の教員の投票で決められており、「驚いた」が、それを「校長任命」にしようとしたときの反対は尋常ではなかった。「適材適所」ではなくて「輪番制・順番制」、時に信じられない話として「あの人はサボってばかり、一度部長をさせたら」などという話もあるくらい、この主任制度は「曰くつき」なのである。
3.中間管理職の設置
 ・平成も12年頃から「学校改革」が議論され始め、「校長のリーダーシップ」が問われ始めても実務担当の主任や主事を動かすエネルギーやハードルは依然として大きく、高く、「連絡調整や指導助言」だけでは一向に学校改革が進まず、「民間人校長の投入」など様々に知恵を行政当局は絞り、遂に「校長教頭と主任間に中間管理職位を置く」ことになる。
・これは明らかに「主任制度の限界」を当局が認めたものだ。昔の組合闘争のことを思い出したのかも知れない。又「忙しい」「時間がない」などと「当事者能力を棚に上げて責任を転嫁する現管理職の泣き言」に行政が折れたものだ。折角の組織のフラットをピラミッドにしようとしている。
 ・教えない管理職の増設はコスト増になるのであるが、「主任制度に余程懲りた」と見えて文科省も「即決し、教員加配を認めた」ことが面白い。今回は組合の反対運動は全くといって「ない」。どうしてだろう。
 ・それが東京都や大阪府でいう「主幹」「首席教諭」とかの呼称でいう「中間管理職」である。完全に管理職と銘打っており、「職務命令が可能となる組織上の上司」であることを明確にしたのである。学校組織の階層化であり、学校も遂にピラミッド型の組織が出現することになった。今後「主任制度」も質的に変化してくるかもしれない。
 ・本校では「担当教頭の職位」を設け中間管理職の位置づけとした。言ってみれば「特命担当管理職」であり、第一号は平成19年4月「入試、広報、情報担当教頭」を発令した。1年間見てきて、この人事は「大成功」だったと自負している。
4.北教祖の「主任手当て」の返還運動
 ・ 北海道教職員組合(北教組)が小中学校での主任手当ての教育委員会への返還運動により、1978年から貯まったが額が37億円になると新聞報道があった。ふざけた話で貴重な税金、公金のたな晒しである。
・ 組合は主任手当てを受け取れば「主任制度を認めたことになる」、道教委は「返金を受領したら反対運動を認めたことになる」と両者間で普通為替や小切手が行ったり来たりしているという。遠い昔の話ではない、つい最近の話である。
・ 大阪府においても「主任手当て」は条例で定められているのだが、金額は私の在職中で大体月額5000円以下の数値であったが、不確かであるが、聞くところによると、各主任や主事はこの手当を自主的に供出していると聞く。一旦個人に入るがどこかに行っているというのだ。
・ 平成19年1月着任して早速、本校での事例を調査したのだが、本校では「主任手当ては支払っていなかった」。理由は分からない。今更詮索しても仕方がない。
・ 改革の一つとして4月以降主任主事に対して「府立高校並みの主任手当て」を支払うように規則を定め、実施した。平成20年度からは更にこの金額を「倍増する」ことにして過日明らかにした。不要な人は返却してくれれば良いが、今のところ1名が不要となっている。私は北海道教育委員会のように「返却分を送り返したりはしない」。
・ 「主任という職位」に対して支払う当然の対価と考えており、この職位は「一般の教諭とは違う」ということを示しているのである。連絡調整や指導助言代と考えれば「安すぎる金額」であるが、金額の多寡ではなくて「この職位への敬意」と考えて貰って良い。
5.分掌主事
 ・主任と主事は完全に法的な取り扱いが異なる。主任の呼称は高等学校でいえば「教務主任」「学年主任」「教科主任(学科主任)」「寮務主任」しかない。主事は「進路指導主事」「生徒指導主事」と「保健主事」の三つを言うが進路、生指と保健ではその職務が微妙に異なる。
 ・進路と生指は「校長の監督を受け、・・・に関する事項を司り、当該事項について連絡調整、指導助言に当たる」とあるが、保健主事は「校長の監督を受け、関する事項の管理にあたる」となっている。極めて重要な違いである。本校の各主任や主事は理解しておかねばならない。
・ 特に重要な「教科主任」は高等学校にのみある職位であるが、現場では一般的に冷たい扱いを受けており、全くの「輪番制」で2~3年目の新人が時に当たったりして「ベテランは誰も言うことを聞かない」、即ち、連絡調整、指導助言など一切出来ず、教科主任の仕事ができないなどの弊害に陥ることが常態化している。これではいけない。法的根拠から逸脱しているし、大体「順番で決める」という職位ではあるまい。
持ち時間、教材選択、シラバスの作成等、極めて重要なこの職位の復権を図るため20年度4月から「校長任命制」にするつもりである。経験豊富なベテラン、求心力のある先生が務める職位であろう。「校長の監督を受け、連絡調整、指導助言に当たるべき人が採用2年目とか3年目の新人で可能とは思えないのである。」
5.20年度の主任、主事の内定
 ・教科主任を除いて本日内定し本人に伝えた。活躍を期待している。