2010年8月26日木曜日

8月26日 遍路行 十九日目 四万十川

十九日目 8月26日(土)   遂に四万十川に


 たった一人の四国巡拝「阿波・土佐二国打ち」も大詰め、終盤に差し掛かった。しかし最後がなかなかの難行苦行である。90キロを3日間かけて歩き、足摺岬38番金剛福寺を目指す。今日は2日目、何処まで脚を伸ばせるか、またどのような人と邂逅できるのか。最大の期待は四万十川をこの目で見ることである。


① 長ったらしい名前「ネスト・ウエストガーデン土佐」というリゾートレストランホテルを6時13分出発。支払いはカードで昨夜の内に済ませる。13680円、飲み過ぎで食べ過ぎ。しかし悪くは無かった。「ギャバ茶」というのが旨かった。初めて味合うお茶であった。もう一度飲んでみたいと思う。何とか工夫して入手したいが果たして出来るか?


② 名所「入野松原」を抜けて快調に足が出る。昨夜のあれほどの痛みも嘘のようにない。シップやエアーサロンパス、特に風呂でサウナに入り、水風呂で良く脚をもんだり、養生したのが利いたのか。ベースは基礎体力にあるのだと思うが、大事には至らない。つくづく健康に生んで呉れた両親に感謝だ。


③ 8時、通りの自販機で冷たいミルクコヒーを買い、昨日買ってあったメロンパンを2個食す。車の行きかう国道の道端に座って走るトラックを眺めながら食べる朝食もなかなか良いものである。早い出発でホテルは用意出来ない。先日の失敗から事前に求めていたもの。人間は失敗から学習する。道の駅のおばさん、「明日食べるなら、油の使ってないほうが・・」と言ってメロンパンを勧めてくれたのである。


④ 8時30分、遂に見たかった「四万十川」の土手に当たる。本当に良い川である。ゆったりと、のどかに、とうとうと豊かに水を蓄え素晴らしい大河である。この川は品がある。水の色が特に良い。名残を惜しみながら、四万十大橋を渡り、四万十市、旧中村市から離れて足摺岬に向かう。足摺岬まであと距離40キロと出る。この標識には嬉しかった。



⑤ 9時30分なんと別れた大学生のXX君に会う。岩本寺から電車で四万十市に来て昨夜は民宿「白月」に泊まったとのこと。これで3回目の邂逅である。縁があるのかなーとつくづくと思った。今日は彼と一緒に歩くか、少し楽しい気分になってきた。人恋しいのか。結局パソコンは山口の実家に送り返したという。「重くて我慢が出来なくなった。軽くなりましたよ。」と嬉しそうに語る。確かにあのA4ノートは重かっただろう。


⑥ XX君、確かに今日は歩ける。体も出来てきたのだろう。少し逞しくなった感じだ。これも遍路行のもたらしたものか。色々としゃべる。17歳の高校生ガールフレンドと別れた。体の関係もあり、下宿にも良く泊まった。父親が癌になり、落ち込んだ時に上手く行かなくなり別れた。大学生の女性友達からは振られてばかりいる。どうも頼りなさそうに見えるらしい。自分は5つくらい年上の人から良く持てる。何人もの人と付き合ってきた。自分には考えられない話ばかりだ。39番で一旦中断、実家に戻りすぐ岡山に帰る。4日から大学が始まるし、就活もしなければならないとよくしゃべってくれた。


⑦ 途中でおじいさんに追い抜かれる。背が高く、上から下まで白で揃え、リュックは赤色、遠目にも格好良く見える。絵になるのだ。少し前にかがみ、内股気味に歩幅は小さく、ピッチをあげて峠も登る。「ナンバ歩き」というらしいがどういう字を書くのだろう。水も時間を決めて立ったまま、飲む。決して座らない。歩きのプロに見える。「構わず、先にお進み下さい。」と僕が言うと、「有り難うございます。それではお先に。」とどんどん先に進む。平行して歩いて見たかったが、こちらはXX君がいる。あっという間に背中も見えなくなってしまった。


⑧ 二人いると良いこともある。情報が得られる。XX君、ネットに強く結構民宿など調べている。早速同じ民宿「星空」を予約。運良く部屋を確保できた。今日は行けるところまで39番に近い所まで行き、明日はここに荷物を預けてお参りし、トンボ帰りでここの立ち寄り、荷物をとって、今度は最後の39番延光寺に近い可能な距離にある民宿を考えるのが一般的とのこと、そうすれば明日の民宿は「久百々(くもも)」が良いらしい。明日は久百々までが42キロ、明後日は久百々から延光寺までは40キロ、今日僕は42キロくらい歩いたから本当にこの1週間は地獄の修行である。


⑨ 38番から39番へは幾つものルートがある。地図には5つ示している。最も多いのが、僕が選択したものらしい。80%はそうするらしい。これを「打ち戻り」という。何か良い響きのする言葉です。秀吉の「中国大返し」を想像する感じで、気に入りました。最もこのルートが距離としては一番短いのですが。


⑩ 茶店で“かき氷”の看板があれば入り、自販機があればペットボトルを飲んでばかりで、歩くより休憩が多い僕たちは15時30分、民宿「星空」に予定を大幅に遅れて到着。名前とうらはらとはこういうところを言うのでしょう。住んでいた一般の民家をコスト安く改造したまさに民宿です。部屋もお風呂もトイレも驚きです。年老いた夫婦が二人でやっている。でもクーラーはあり、テレビもある。言うことはない。一生懸命、老夫婦がやってくれる。おじいさんが洗濯物を全部やってくれるというのだ。これには参った。どうも乾燥機を置いて居ないらしい。乾燥機というのはどうもこの辺の老人には贅沢に思えるらしい。確かにそうだな。これほど太陽の日が強い所を何故、電気で乾かすのか、言われて見ればそのとおりである。今17時20分、日差しはまだ強い。僕の部屋から中庭をみると確かに僕のもの全て吊していました。もうすぐ乾くのでしょう。


⑪ ここで毎日の洗濯について、僕は宿に到着したら全て脱ぎます。全てです。そして洗濯機で100円か200円の所がありますが、洗剤は無償の所と50円の小さい袋を売っているところがあります。大体30分で洗濯は済み、次は、これはどこも大体同じですが30分100円、僕は200円入れて完全に乾燥させます。本当は生地のためには良くないのですが、ぱりぱりに乾燥したものが明日の戦闘服になります。従って理屈で言えば他にパンツ1枚あれば他は要らないのです。浴衣がありますから。しかし下着や半パンなど多く持って来て困りました。しかし徳島とか高知市内を歩いたりするときには助かるのです。基本的に下着は極力少なくが本筋ですね。XX君、ジーパンを毎日洗わず、3日か4日ピッチとか、気持が悪くなります。僕には信じられません。とにかくジーパンは嫌いです。


⑫ 自動販売機について気付いたことを少し記してみよう。都会にいると使うことなど滅多にないが、こういう旅や地方では必需的である。どれほど助けられたことか。まずメーカーで言えば群を抜いてコカコーラが強い。圧倒的である。何処にもある。後はDyDo(ダイドー)が結構頑張っている。声が出るのだ。「いらっしゃいませ、おつりをわすれませんように、ありがとうございました」。ポカリスエット、キリン、Boss –コーヒー(サントリー)と続く。各社各様でネーミング、ボトルの形、値段、など違いがあるが、とにかく硬貨を持っていないとどうしようもない。僕は常に気を付けて硬貨を用意した。飲みたいときに飲まないと知らない町では次に何処に自販機があるか分からず、大変なことになるからである。我が人生でこんなに自販機を連続で利用した経験はない。現代の歩き遍路には死中の神である。