2008年5月29日木曜日

5月29日(木)修学旅行その3;無念の撤退

中学校修学旅行:その3「無念の撤退
・ 5月29日13時過ぎ、ホテルに帰着。「無念の撤退」だ。キスカ無血撤退みたいだ。残念だが仕方がない。「名誉の撤退」ということもある。退くことは進む以上に勇気が要る。雨にやられた。すごい雨だった。 「生徒の安全が第一」だ。
・ 4時起床。長い間の習慣で「シャワー」を使わないと目が覚めない。髭も必ず落とす。外はまだ暗く、様子を伺うが「雨はない」。これは行けるかもと思ったのが早計だった。4時45分全員揃う。カウンターに置いてある朝食と昼食用の2食、ポカリと生茶のペットボトル2本だ。それにカロリーメイトが一箱づつ。生徒は早くから起きて準備してたそうだ。
・ バス2台で約50分ほどの「荒川登山口」に到着。汚い廃墟みたいな屋根だけある場所を借りて立ったまま朝食だ。おにぎり2個と少しのおかずである。このコースは初心者用に準備された「トロッコ道」を歩くルートだ。途中で「5人の山岳ガイド」さんをバスに乗せて行く。すでに雨が降り始める。登山口周辺は車が数十台、登山服姿の老若ではなくて老壮男女で一杯だ。100人近くは居たのではないか。
・ 「雨はますます酷くなり」、些か校長としては「気になる」。ガイドのセンターらしき人に「大丈夫でしょうか?」と聞く。心得たもので「まだ行けます。ただ今後どう降るかですね」とお答えになる。危ないと思ったら止めますから」と。安心する。
・ 生徒はあらかじめ5班に分けてそこに一人ずつガイドさんが先頭に立つ。教員は添乗員を入れて5人が最後に回って出発だ。雨は変わらない。足場はトロッコ道の軌条内を歩くのだが「枕木」を踏んで歩けば問題ない。途中からはその軌条内に「足場板」を走らせており、極めて歩き易くなっている。
・ 幅が30センチ程度であるが丁度下駄の裏みたいに凸凹になっており、すべることもない。この道が2時間ほど登り道であるが続く。しかし手すりがなく一つの板場を歩くのも結構難しい。特に川を渡るつり橋というか鉄橋というか陸橋の数が多く、そこは手すりもなく、「眼下は激流」だ。
・ 岩に当たり砕ける水しぶきと轟音が山にこだまし、篠つく雨の音で幽玄な雰囲気だ。生徒はあれほど普通はふざけあっているのに声一つ立てづただ歩くだけである。雨はますます強くなってくる。一句「分け入っても分け入っても山の雨」パクリに近いが。」
・ 全員完全に「雨具用意で完全装備」であるが、雨はどこからともなく伝って体に入ってくる。全員立ち止まって「写真撮影」などの雰囲気ではない。下手をしたら今まで撮ったメディアをパーにしてしまう。ビニールで包んでリュックの奥だ。
・ 最初のポイントは小杉谷小中学校の跡地。看板によれば大正12年に集落が完成した学校の跡地だ。林業関係者の子弟のためにこのような山奥に学校があるなんてと思うが、雰囲気がとても良いのだ。正門がまだ残っている。ここまで50分か。
・ 次のポイントは三代杉だ。江戸時代初期から3代に亘って一つの切り株に自生してきた大杉である。ところで屋久島では1000年未満は「小杉」といい、1000年を越えて初めて「屋久杉」というらしい。ガイドさんの説明は親切で時々立ち止まって草花など説明してくれるが雨が邪魔をする。
・ 遂にトロッコ道が終わる。これからは厳しい山道である。足場は悪く石ころだらけ、雨のため水の流れ道となりジャブジャブと足を入れながら歩かないと危ないのだ。端を歩いてもし滑ったりすると滑落ということに成りかねない。この辺から私の気持ちは「暗澹」として来る。「大丈夫だろうか」。
・ 私は2班目についており後のグループは無事に来ているのか、さっぱり分からない。携帯など不通の山の中である。全員の集合場所はあらかじめ「ウイルソン株」というところに決めていたが、そこまでの道はまさに難所であり、滑りながらなんとか生徒を激励しながら進む。
・ 亜熱帯に属し「もののけ姫の舞台」そのもので、原生林の中と言ってもこう雨が降れば「恐怖感」が少しもたげてくる。登山口を出発して3時間遂にウイルソン株に到着だ。ここで休憩とするが他のパーティの人たちもここで思案顔をしている。
・ ガイドが集まり協議している。案の定である。言わなくとも彼らはプロだから「危険は察知」している。下ってくるメンバーもいる。ガイドは携帯電話ではなくてトランシーバーを使って他のガイドと連絡を取り合っている。
・ このウイルソン株でますます雨はきつくなり土砂降りの感じだ。雷が遠かったけれども2回光った。「もう限界」と感じていたところ、添乗員が寄ってくる。低気圧が停滞し風が少し出て来た。倒木が危険だし,上の方には道が川のようになっているところもあり、「これ以上は無理」と言っていると報告だ。即座に「了解」とし生徒に伝達する。
・ 生徒の中には「えー、」という残念そうな声もあったが「仕方がない。引き返す勇気も要る」と説明して、記念に何とか写真を1枚撮ったが大雨の中の写真である。どうなっているか分からない。
・ 他のグループの人々も三々五々引き返す準備に入っている。帰りは帰りで足のとり方など難しく体制を立て直して出発だ。時刻はまだ9時過ぎである。しかし生徒は元気だ。帰りの足は早い早い。「走るな」と先生の声がとどろく。「皮肉なもので少し小ぶりに成ってくる」。
・ 生徒は蛙や蟹を捕まえたりしてどんどん下っていく。雨が止み、おなかが空いたというので私の班は10時30分に2個目の弁当だ。出発地点の登山口についた時は完全に「雨上がる」だ。仕方が無い。12時30分全員が下山。誰一人事故なくだ。一人や山ヒルに腹の血を吸われたのが居たが。
・ 添乗員は一足早く降りて迎えのバスを手配していたので、丁度良いタイミングでバスが到着。ホテルに到着が13時30分。生徒には風呂に入らせてその後近くの屋久杉加工工場とかお土産店に連れて行くそうだ。
・ 私は夕刻の飛行機で鹿児島空港へ、乗り次いで伊丹に22時前に着陸の予定。時間が有るので校長日記を今書いている。今回のコース、男子生徒なら十分いけるし問題はなかろうが、「来年の女生徒と2倍の生徒」のことを考えるといささか問題である。
・ まず、カヌー下りはしんどい、更衣や水温、危険度など考えると良くない。指導員が大勢必要である。又縄文杉登山は女子中学生にはきつすぎると思う。思い付きではあるが隣の島「種子島」にしてロケットの発射基地などは如何かと副校長には言っておいた。
・ 「縄文杉」まで行けなかったのは残念であるが又15才の若い生徒には何時か機会があるだろう。私自身も雨に祟られたことを恨む気にはならない。「まあ、こういうものだ。これも屋久島登山記念だと思うように」と生徒には言った。生徒はあっけらかんとしている。一句「雨の屋久 縄文人の声がする